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Licaxxx ✕ ELLA WAREHOUSE
レコードで遊ぶ楽しさや
自分だけの個性を見つける場所

めまぐるしく変化する時代と共に、中古レコードのあり方もここ数年で急激に変わってきた。最近は、サブスクへのカウンターともいえる世界同時多発的に発生したレコードブームと海外市場のインフレの影響で、中古レコードのプライスが高騰し、コレクタブルな側面がより一層強まっている。

中古レコード本来の魅力である、「手軽さ」や「自由さ」を取り戻したい、そんな思いのもと、<ELLA RECORDS>を主宰する葛原繁喜(くずはら・しげき)と同社スタッフでありDJとしても活躍するDJ SHIKISAIのふたりが、さまざまな角度から音楽カルチャーを支え発信し続けているLicaxxxと考える、これからのレコード屋のかたち。

カジュアルな金額で、
みんなにレコードで遊んでもらいたい。

DJ SHIKISAI:2018年の6月に<ELLA RECORDS SHIMOKITAZAWA>をオープンしたんですが、コロナの状況を考えて去年の3月に一旦クローズしまして。もともとオール・ジャンルのレコードを扱っていたんですが、11月5日(土)から12インチ・シングル専門店<ELLA WAREHOUSE>として再開することになったんです。

葛原:12インチってLP(アルバム)にくらべて安いので、カジュアルな金額でみんなにレコードで遊んでもらいたい、というのがコンセプトの出発点。
12インチ専門店ってあまり聞かないコンセプトだと思うんですが、近年LPの価格は4,000円、5,000円とどんどん高くなってきているから、もう少しカジュアルに遊べる媒体として12インチに注目した感じです。

DJ SHIKISAI:最近、LicaxxxさんがDJ BAR Bridgeでプリンスのエディットから、エクスペリメンタルやアンビエントなものまでレコードでプレイしていたと思うんですが、12インチは買っていますか?

Licaxxx:新譜も中古も含めて12インチは結構あると思います。DJユースなものを買うから、どちらかと言えばLPの方が少ないですね。LPは本当に家で聴きたいものを買っている感じです。

DJ SHIKISAI:ちなみに最近はシカゴ・ハウスを中心に買っているんですよね?

Licaxxx:そうですね。行きつけのレコ屋でシカゴ・ハウスが入ったらチェックしています。すぐなくなっちゃうので…。

葛原:人気ありますからね。新譜の12インチ・シングルが急激に普及したのはシカゴ・ハウスが誕生した後で、MASTERS AT WORKとかが出てきた頃だと思うんです。だからそれ以前のものはなかなか数が少ないんですよね。

DJ SHIKISAI:輸入で1枚だけ入ってきたとかそういうレベルだったらしいですしね。

葛原:そうそう。あとは、後々現地に行って買い付けしてきたり。やっぱり圧倒的に数は少ない。

DJ SHIKISAI:面白いのは12インチって内容がかっこ悪いものはちゃんと安いんですよね(笑)。

葛原:そう、このお店も安いものばっかりだったらどうしようっていう(笑)。そこは、再解釈してもらうしかないかなと。やっぱり再解釈できるのは若い人だと思うので。

Licaxxx :それでいうと、ブレイク・ビーツがすごく人気になってきているんですけど、昔は安い箱に入っていましたからね。

DJ SHIKISAI:値段関係なくちゃんと丁寧に試聴して探せば良いモノが出てくるのも12インチの良さですよね。

葛原:ハウスやテクノは本当に内容が分からないモノが多いから、試聴が楽しいんだよね。ハウスなんかはリリースの敷居が低いせいか、とんでもないモノがいっぱいある。でも、安くてカッコいいモノもいっぱいあるんだよね。

Licaxxx:原曲が最悪でもリミックスが良かったり。4曲中1曲が当たりっていうのも全然ありますしね。

DJ SHIKISAI:値段的にも冒険できるし、そういう意味でハウスやテクノは楽しいかもしれない。

良い音で聴いたら「欲しい!」ってなるし、
レコ屋にいる意味がある。

葛原:この店で取り扱うジャンルは、ヒップホップ、R&B、テクノ、ハウス、ディスコ、ドラムンベース、レゲエ、その他、の計8種類と極力シンプルな構成にしようと。そうすればスタッフがあまり手を加えずに済むし、時間ができて仕事を楽しめると思うので。

Licaxxx:4つ打ちと並列で他のジャンルが置いてあるのは嬉しいです。だいたい4つ打ちが少ないか、4つ打ちしかないレコ屋がほとんどだと思うから。

DJ SHIKISAI:若いDJの方ほどジャンルに境界線がない傾向があると思うので、自分が普段触れていないジャンルもこのお店で気軽に試聴してみてほしいですね。
周りに12インチを買っている人はいますか?

Licaxxx:人によると思いますね。ただ、あまり年齢とかに差はなくて、新旧問わず昔からDJやっている人でもレコードでやらない人もいれば、始めたばかりだけどレコードでやっている人もいます。でも、DJ以外の人となるとまだ伝わりきってない感じはしますね。

DJ SHIKISAI:DJではないお客さんは、まず山下達郎さんや松任谷由実さんなどのアルバムに行くと思うんですけど、若い世代のDJでもレコードでプレイする人が増えてきた気はしますよね。

Licaxxx:一時期よりは全然増えていると思います。私がDJを始めたころは周りにレコードが皆無になり始めた時代だった気がするので。

葛原:なぜ復活してきているんでしょうか?

Licaxxx:いまはCDJで何でもできるから、逆につまらなくなってきているというか。あとは、CDJを買うよりターンテーブルを買うほうが安いからという理由もあると思いますね。「DJを始めるときに何から買ったらいいですか?」ってよく聞かれます。

葛原:なるほど。売る側にとっては意外とそういうことが分からないので面白いですね。じつは、このお店ではプライスを表示しないで、A(1,100円)、B(550円)、C(110円)と分けて、値段を見ずに楽しくレコードを買えるようにしようと思っているんです。
「これいくらだろう?」と考えずにサクサク買えるように。C(110円)だけを見る人も1,000円持っていけばそれなりに楽しめるし、敷居を下げようかなと。

Licaxxx:個人的には値段も雰囲気も含めて、初めての人が入りやすいレコード屋があればいいなと思っていたので嬉しいです。コンビニエントな雰囲気が出過ぎるのは嫌なんですけど、とはいえ、何か買わなきゃいけないんじゃないかとか、試聴の仕方が分からないとか、その不安を一個でも解消してあげると新しいお客さんが増えるのかなと感じます。

葛原:ちなみに、誰も喋っていないお店よりも、スタッフ同士がお喋りしていた方が入るときに気楽ですか?

Licaxxx:たしかにその方が入りやすいかも。お店に来てくれたお客さんや仲間と喋っていてもいいですし。「今日はあの人いる!」ってなった方が楽しいと思います。あと、スピーカーの音もしっかり出ていると嬉しいですね。試聴しているレコードの音が聴こえないくらい(笑)。ヘッドフォン以外に良い音を聴ける場所って少ないと思うし、良い音で聴いたら「欲しい!」ってなるし、レコ屋にいる意味があるというか。スタッフさんのオススメも知ることができるし、そこから会話も生まれるのかなと。

買って帰るだけだとつまらない。
プラスアルファの楽しみ方。

葛原:レコードだけ見て帰る場所なのか、それともゆっくりできる場所なのかでまた大きく変わりますよね。とはいえ、レコ屋ってレコードを買いにくる場所だから、何か良い方法がないかなと模索しています。幡ヶ谷店は子連れの方でも入りやすいように雰囲気は作っているんですけどね。

Licaxxx: 試聴って時間がかかるから、単純に滞在時間は長くなると思うんです。だったら、飲み物的な要素があってもが良いかもしれないですね。私は、次の予定まで1時間空いちゃってどうしようかなってときに時間つぶしにレコ屋に行くことが多くて。本屋やレコ屋ってそういうテンションで行けますし、そこにカフェ要素がくっついているとさらに嬉しい。とりあえずゆっくりすることを目的で来た人も徐々にレコードの聴き方がわかってきて、そこから興味を持ってくれたり。ROUGH TRADE(※イギリスを代表するレーベル兼レコード・ショップ)なんかはクラフトビールが飲めますしね。どこもそんな感じになってきている気がします。

葛原:ニューヨークにあるA-1 RECORD SHOPもカジュアルで良いよね。ちゃんとレコード汚いしね(笑)。

DJ SHIKISAI:レコード屋だからこそ、意外とそういうのも大事な要素なのかもしれませんね。

Licaxxx:下北沢という立地ですし、そういう要素があればすぐ人が集まってくると思いますね。敷地面積も広いからポップアップもいいと思います。期間限定で若いデザイナーやブランドを呼んだり。12インチ・オンリーのDJゲストを週末に呼んでインストア・イベントをやったりね。

葛原:買って帰るだけだと今の時代はつまらないし、通販と一緒になっちゃう。だからこそ、違う楽しみ方ができる+αの部分をELLA WAREHOUSEを通して提案できればと思っています。

Licaxxx
東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー。
DJとして国内外のビッグフェスやクラブに出演する他、世界各国のラジオにDJMIXを提供しメゾンブランドのコレクションやCM等、幅広い分野への楽曲提供を行う。
世界中のDJとの交流の場を目指しているビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰。

葛原繁喜
ELLA RECORDS代表。
2005年にレコード海外買い付け専門店をスタートし、2013年より国内での買取を開始。以降は、国内販売を中心としたELLA RECORDS、2018年には株式会社CARASCOを創業し、レコードの国内外のオークション、店舗、WEBサイト運営、海外通販事業を展開。

DJ SHIKISAI
2003年からDJとして鹿児島県は奄美大島で活動をスタート。
2008年からは活動拠点を東京に移す。アップリフティングなハウス&ディスコを中心としたプレイ。
自身によるソウルフルなヴォーカルが映えるハイエナジーなデビュー作「DIESEL DISCO CLUB THEME」を皮切りに、現在レーベルオーナーとして【DIESEL DISCO CLUB】を2020年に始動。ディスコ/ハウスを中心とした幅広いスタイルの楽曲をリリースしている。


interview photo by Satoko Imazu
cover photo by Hayato Watanabe


住所:東京都世田谷区北沢2丁目25-8  東洋興業ビル 3F 3A-3
時間:13:00〜20:00
OPEN:金曜日、土曜日、日曜日
電話番号:03-6407-0360
取扱いジャンル:HIP HOP、R&B、TECHNO、HOUSE、DISCO、DRUM&BASS、REGGAE、OTHER
※Cashless Payments Only